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私は直人君とカフェで向かい合って「本日のコーヒー」を飲んでいる。
デ、デートじゃないわよ。このお店に視察に来てるだけ。
デートじゃないけど、服とメイクに気合が入っちゃうのは仕方ないよね。
直人君はスーツ。ライブの時の細身のスーツ似合ってたけど、あれは派手すぎて会社では着られないから、青木かAOYAMAで買った無難な奴。
メイクなしだとそんな素朴なスーツも似合う。瞳も今は無邪気な子犬みたいだ。そんな瞳をきらきら輝かせて直人君が言う。
「このお店、羽田さんがインテリアコーディネイトしたんですよね。雰囲気よくて素敵だなぁ。センスあるんですね」
「そんなことないよ。基本コンセプトはどこも同じだから、それに手を加えただけ」
「でも、この店、売り上げいいってチーフ聞きましたよ。羽田さんのセンスのおかげですよ」
うううう。一緒にいるだけでドキドキするって言うのに、目の前で褒められるって心臓に悪すぎ。
私たちが務めている会社はカフェのチェーン店を展開している。その売り上げのために策を練るのが戦略部企画三課の仕事。どこに作るか、どんな内装にするか、ターゲットによって決める。
「住宅街で主婦層も多いし、大学も近くにあるから学生も多い。どんな時間帯でもお客さんが来てくれるから売り上げはいいかなぁ。みんなのんびりしちゃうから回転率はあんまりよくないんだけどね。藤木君にはそういう統計を取ってもらうことになると思うよ。最初は慣れないかもしれないけど」
「僕、数学得意なんで大丈夫です」
「ええ! 嘘! 意外!」
「意外? 僕、そんなにおバカに見えます?」
「そうじゃなくて」
ビジュアル系美形ボーカルが数学も得意とか、何、その最強設定。
「私は数学苦手だから……仕事的にとても助かる」
てか、これ以上惚れさせないでよっ。
そんな風に思ってるのに、直人君は綺麗な瞳で笑って言うんだ。
「ほんとですか? 僕、頼りになる新人になれそうですか?」
え? 私、直人君を頼っていいの? 遠くからずっと見て来たこの人に頼っていいの?
「頼りにならないですか?」
沈黙してしまった私に畳みかけるように直人君が聞いて来る。
だから、私は答えるしかない。
「頼りに……なる」
私の言葉に全開で笑う直人君。
その笑顔は周りが見えなくなるくらい眩しかった。
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