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振り返るとそこには、戦略部きってのエースが立っていた。そして、なぜか、ほっとした顔をして言った。
「あ、こいつか」
「『こいつ』ってなーーにーー? 私の可愛い部下に向かって」
私はわざとらしくじとりと睨みながら言う。
失礼な言葉を吐いたのは、戦略部第一課の出世頭と言われている能見壮太、私の同期だ。切れ者として会社の評価は高く同期の中では一番の出世頭と言われている。彼とは仲はいいがライバル視もされている。自分で言っちゃうのもなんだけど強引な彼よりも私の方が店長達から人望が熱いのだ。ちょっと自慢。彼は歯に衣を着せない物言いをしちゃうから、ちょっと周りから怖がられている。今もざっくりと私の直人君に『こいつ』とか言いやがった。つきあい長いから悪気がないのは分かってるんだけどね。
「いやーー」
そう言いながら壮太は頭を掻いた。
「映美がさーー羽田が若いツバメ連れてご飯食べに行ったって言うからさぁ」
「ちょっ何人聞き悪い言い方するのよーー仕事中にそんなことする訳ないじゃん。何真にうけてんの?」
「だよなーーーあははははーーー」
と笑う大口を開けて笑うと綺麗に並んだ白い歯が眩しい、のが社内の女性に受けてるらしい。
「邪魔して悪かった。また今度飲もうぜ。じゃ!」
「え? もう行くの?」
「おう、これから外回り」
「そんな時にわざわざ寄り道? 暇ねぇ」
「あはははは」
と能見壮太は爽やかな笑い声を残して去って行った。
「仲いいんですね」
直人君がぽつりと言う。
「同期だからね。あんながさつっぽい奴でも結構モテるんだよね」
「羽田さんは?」
「え?」
「羽田さんは彼のことをどう思ってるんですか? 彼、モテるんですよね」
「え?! うーん、声は好きかな?」
「声?」
「低めのいい声してるなーとは思う。でも、それだけ」
さっきも言ったけど、顔に関しては男は大体へのへのもへじだけど、声フェチな私には壮太の声はちょっと好き。あいつ、歌うまいんだよね。だから、カラオケに一緒に行くと楽しい。
てか、私を声フェチにした原因は目の前にいる直人君だよね。声がよくて歌がうまいと評価上がっちゃうてのはライブの行き過ぎ。
うう、やだ、もう、あらためて直人君のこと好きだぁって自覚しちゃう。顔、赤くなる。そんな私に、
「ふうん」
直人君はそう一言言って、壮太の後ろ姿を眺めていた。
ねぇ、やっぱり直人君怒ってる?
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