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「今日からここで働くことになった藤木直人(なおと)君だ」
チーフが彼を紹介した時、フロアの女性は、多分一斉に心の中でため息をついたと思う。
『若い男の派遣社員が入って来ると楽しみにしてたのにチョー地味顔』
横にいる映美が私を肘で小突いて小さな声で言った。
「久実の元カレの方が全然かっこいいじゃん」
「あいつのことはもう言うなって言ったじゃん」
私はイラッとしたけど、映美の言葉が私の記憶を刺激した。
『彼もできたし、これは封印』
そう言ってクロゼットの奥にしまったアルバム。
封印にしたけれど捨てきれなかった大好きだった人。
偶然知ってしまった、ライブ中は妖艶なメイクをしていたけれど、それを落とすと別人なくらい地味顔だったってこと。その顔の写真が欲しいと言いながら照れながらもいいよと言ってくれた彼。
☆☆☆
「直人君ってNaotoだ……どうしてこんなところに?」
私は部屋で見つけた写真を手に呆然となった。
彼ができたからとライブに行くのやめた。他の男の話をするなって言うから。それから普通に恋人やって、就活して無事社員になれて、普通に社会人の日々を送ってた。その彼氏と別れて一か月。忘れていた人が、うううん、忘れた振りをしてた人が目の前に現れた。
陳腐なセリフを言っていいかな。これって、運命……?
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