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「藤木君の教育係は羽田さんにお願いしたいんだけど、いいかな?」
見とれていた私の寝耳に水な言葉が降って来た。
「そんな私が新人教育なんて、まだまだですよ」
私は本当にそう思ったから断ったんだけど、
「もう3年目だし、それに羽田くんはしっかりしているから大丈夫だよ。それに歳が近い方が教わりやすいだろう?」
チーフは聞いてくれなかった。
その横で直人君が素朴な顔でにこっと笑う。
「よろしくお願いいたします」
うっ。
……かわいい……。
「こちらこそ、よろしくお願いします……」
メイクをしてないからあの妖しいほどの美しさはないけど、顔のパーツの位置は整ってるのよね。地味だけど、可愛いんだよぉ。
「じゃ、よろしく頼んだよ。藤木君の席は羽田さんの横ね。ついでにでき替えするか」
チーフはそう言うと、直人君を私の横の席にするために席替えを指示してから、フロアを出て行った。
チーフがいなくなってから女性たちが一斉に不満の声を上げた。
「歳が近いからって、私へのあてつけ?」
そう言ったのは、20年以上のキャリアのある佐藤知子先輩。まあ、いわゆるお局様。20年以上働いていたいまだに役職につけないのは推して知るべし。
「やあん、せっかく机をデコったのにぃ。移動すんの、めんどくさっ」
そう言ったのは今年入ったばかりの愛梨ちゃんは入社した時の歓迎会で『会社は結婚相手を探す場所の一つだと思ってます』と自己紹介して、可愛い新入社員を好ましく思ってた周り(主に妻帯者の男性社員)をしんとさせたキラキラ女子。仕事は……こちらも推して知るべし。そして、彼女の結婚相手の条件に「派遣社員」の文字はない。
「気にすることないよ」
そう言ってくれるのは同期の久本映美ちゃん。新入社員の頃からの親友。
あとの男性社員は席移動を言われなかったので、のんびりと直人君に挨拶したり、「大変だけどがんばれよ」なんて、私に声をかけてくる。
私はそれに愛想笑いを返す。
横を向くと、純朴に笑いかけてくる……好きだった人。
ああ、もう頭がパニックだよーーーー!
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