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バックヤードにこっそりと入って店長に声をかける。
「今日も盛況ね」
「羽田さん! おかげさまで!」
まだ若い二十代の店長坂本新一君だ。まだまだ若くて失敗も多いけれど、それ以上に彼の勢いと熱意はスタッフ達にモチベーションを与えてくれる。
「羽田さんがいつも相談に乗ってくれるんで助かります」
「私が一番手をかけてる店だからね。もし、余計な口出ししてたらごめんね」
「そんなことないですよ! 羽田様様ですって、で、その人は?」
「ああ、今日は彼を紹介しに来たのよ」
私が新しい派遣社員の藤木君だと紹介する前に
「え? 彼? 結婚報告ですか?!」
と、坂本くんがすっとんきょうな声をあげた。
「「え??」」
思わず私と直人君はハモってしまった。
「坂本君、何言ってるの? 職場にそんな人紹介しに来る訳ないじゃない。今度、私が面倒を見ることになった新人派遣社員さん」
「藤木直人です。よろしくお願いいたします」
直人君がぺこりと頭を下げると、坂本君はほっとした顔をした。
もう何を言い出すのかな――。まあ、こういう先走って慌てるところも含めてまっすぐなんだよね、坂本君は。
「すいません……。こうやってすぐ暴走しちゃうんで羽田さんのフォローが必要なんですよね。俺、もうちょっと落ち着かないとなぁって思うんですよね」
「やだなぁ。坂本君は勢いが取り柄なんだからその調子でいいの」
「でも、もうちょっと落ち着かないと」
「店長――。手が足りないんでカウンター出てください!」
私たちが笑い合ってるところに若いスタッフの女の子が呼びに来た。
「あ、ごめんごめん、すぐ行くよ」
振り返って帰ろうとしたスタッフの子に私は声をかけた。
「美緒ちゃん、元気?」
振り向いた顔は不機嫌そのものだった。
「無駄に元気なのは店長だけで十分です」
そう言うと、踵を返してカウンターに向かった。
「困ったことあったらLINEちょうだい」
坂本君は笑顔でうなづくとバックヤードを出て行った。
「あの子、坂本さんのこと好きなんですね」
直人くんがぽつりと言う。
「え? そうなの?」
「坂本さんが羽田さんを慕ってるのが気に入らないって態度ありありでしたよね」
「え? ほんと? 全然知らなかった」
「……羽田さんてそういうところ鈍いですよね」
「なんか言った?」
「いいえ、何も……」
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