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再びプロローグ 十二年後
「いたいた、亜衣」
放課後、中庭のベンチでペンを走らせていた亜衣は呼ばれて顔を上げた。クラスメイトの美乃里と、ルームメイトの由利子が並んで立っていた。
「手紙?」
「うん」
「あたしたち買い物に行くけど亜衣はどうする?」
「今日はやめとく」
「そう? じゃ、ちょっと行ってくるから」
「うん。また明日」
亜衣はふたりを見送った。それから手紙の続きを書き始める。
二学年一学期の中間考査も無事に終わりました。結果はまあまあ。おじいちゃんや宮子おばあちゃんは元気ですか。早く夏休みにならないかな。そしたら……
「……」
手元が暗くなって亜衣は顔を上げる。すぐ目の前に、ひとりの生徒が立っていた。
「こんにちは。隣に座っていいですか?」
「どうぞ」
亜衣の傍らに腰を下ろしたのは、見たことのない生徒だった。胸元のリボンのカラーは同じ二年生のもの。誰かが転入生が来たと話していたのを思い出す。
「あの、もしかして転入生の人ですか?」
「ええ、そう。どうぞよろしく」
彼女は亜衣の瞳を見つめてにっこり微笑んだ。その笑顔の見事さに亜衣は引き込まれそうになってしまう。
(なんだろう)
なんなのだろう、この懐かしさは。
「中谷亜衣です。クラスは違うけど仲良くしてください」
「わたしは、加倉さやかというの」
さやかは微笑み、そして付け加えた。なぜだかひどく懐かしい声の響きで。
「よろしくね、亜衣ちゃん」
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