1 さよなら、のぞみ

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 今年の二月二十八日に、のぞみが仕事を辞めた。  その日の東京駅には、彼女の退職を惜しむ人たちが、皆こぞって集まってきた。プラットホームはまるでお祭りのようで、数え切れないフラッシュが光り、周りのビルからも沢山の人が手を振っていた。ホイッスルが鳴り響くなかを、のぞみは誇らしげに胸を張って、ゆっくりと最後の出発をしたのだった。 私はその場にいた訳ではない。テレビでも放映されたので、あとで模様を知ったのである。最終日は日曜日だったのだし、私も著述業という職業柄、比較的時間に融通はきくのだが、その日だけは仕事が立て込んでいて、どうしても行けなかったのだ。 のぞみはとても残念がったし、私もたいへん悲しかった。なぜなら私はこれまで一度も、彼女に乗ったことが無いからである。乗ろう乗ろうと思いながらも、なかなか二人の時間が合わなくて、結局乗れずじまいのまま、彼女は仕事ができなくなってしまったのだ。 のぞみは妊娠していた。かねてからの念願だった、私たちの子供ができたのである。
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