3 のぞみは海を越える

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「やっぱり海外よね」のぞみは言った。  もっともだと思った。彼女は商売柄、日本中をくまなく見てきているのだ。  のぞみが旅に出るというだけで、それはたいへんなことだ。だいいち目立ってしょうがない。なにせ日本中の人に顔を知られている。だから国外ならば、彼女も目立たないだろうと思った。 そんなわけで行き先は、北京と上海ということになった。なんでも彼女の大先輩が、中国で働いていたことがあるとか、ここ数年お客さんに中国人が多かったとかで、興味を持ったものらしい。 私はそのとき初めて知ったのだが、なんでも妻は三ヶ月前から、通信講座で中国語を習っていたらしく、もうたいてい聞き取れるのだという。 「三ヶ月はすごいね」と私が驚くと、「仕事中に聞いてたもの」と妻は答えた。 ――最高時速三百キロで聞く中国語。なるほどこれが本当の〝速聴〟である。
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