3 のぞみは海を越える

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 私たちは飛行機で、一路上海に入った。  郊外にある空港から、まずリニアモーターカーで市中に入り、上海タワーを見物した。そうして市内のレストランで食事をした。  のぞみも一般の女性に劣らず、旅先での食事を楽しみにしていた。 けれどもあいにく中国は、その期待に応えてはくれなかった。その代わりにどんな美味しいものよりも、大いに印象的な食物に出会えた。  それは北京の屋台で売っていた、ムカデの串焼きである。のぞみはひどくショックを受けて、帰ってからも何度もそのことを口にしていた。 「ムカデってどうして、あんな形状なのかしら。足がいっぱいあって、節々で繋がっていて……知ってる? あれって途中で千切れても、千切れたところだけで動くのよ」  私もまったく同感だった。足がたくさん付いていて、同じものが幾つも繋がっていて、それが途中で離れたとしても、それだけで独立して動くなんて――。 そんなものは生き物じゃない。
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