家族

6/8
前へ
/8ページ
次へ
「こ~ら哲雄、な~に昼間っからさぼっとる!お客さん待ってるんだからとっとと働け!」 俺は元祖おしくら饅頭の三代目だ。 店を興した祖父は二十年近く前に亡くなり、二代目の父はちゃっかり早々に隠居した。 母は忙しい時には手伝ってくれるが、最近はそう忙しくもない。 店は、自称看板娘の祖母が切り盛りしていた。 そう、祖母は奇跡的に生還した。 あれから四十年、九十歳を過ぎても未だピンピンしている。 「小林もな、いい年してこんなボンクラとつるんでないで嫁さん見つけな」 祖母はいつでも一言二言多い。 「イイ子がよりどりみどりなんで迷ってるくらいですよ、余裕余裕」 小林はお調子者らしくよくわからない理屈をこねた。 「そんならうちの哲雄にもわけてやっとくれよ。このバカ、盛りもこないうちにハゲ散らかって」 「ババァ!じいさんや親父はこの年にはズルムケだったじゃねぇか!俺は少々スッキリしてるだけだ。あ、小林、映写機の修理代幾らだ?」 「部品代だけでいいっす」 「すまねぇ」 俺は小林に部品代と饅頭を一掴み押しつけた。 いい後輩だ。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

30人が本棚に入れています
本棚に追加