1 それが彼女との出会いだった

12/15
前へ
/50ページ
次へ
「些細なことだよ。上司と一悶着あって、投げ出したくなった」 「ふーん。私は、親と一悶着」 「互いに衝動に駆られたわけだ」 「いつも死にたいって考えてんの?」 「ああ、いつも。早く死にたい、虚しい。そういうのが自分の中でずっと漂い続けてる。いい加減押し潰されそうだと思って」 空を仰いだままだった彼女の顔がこちらに向けられる。 横目で見ると、先程と同じような不器用な笑顔を作っていた。 「おんなじ」小さく掻き消されそうな声だったけれど、彼女は確かにそう言った。 「アンタ、名前は?」 「.....工藤忍」 「シノブ? 女みたい。私は永麻(えま)」 「僕はフルネームで言ったのに」 「.....坂上(さかがみ)永麻」 舌打ちしながらご丁寧にフルネームを答えた彼女は口は悪いけれど真面目な性格なのかもしれない。
/50ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加