1 それが彼女との出会いだった

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そして、僕が小学校に上がる前に彼女は失踪する。 何日も何日も、部屋の隅っこで膝を抱えて過ごしていた。 幼い僕はそれ以外にどうしたらいいのか分からなかったから。 幸い餓死する前に異変を感じた近所の人間が通報して、僕は晴れて施設暮らしということになったのだけれど、結局失踪した彼女が見つかることはなかった。 きっと新しく出来た男と逃げたのだろう。 施設での生活はお世辞にも恵まれていたとは言えないけれど、今までの生活と比べたら断然マシだった。 寝る場所と食べる物さえあれば充分だ。 学生時代はあまり人付き合いが得意でなく暗い性格が災いして、ひたすらに地味な嫌がらせを受け続けていた。 けれど、特段寂しいとか、悲しいとか、辛いとか。 そういった感情とは無縁だったと思う。 ただ、虚しさだけがいつも僕の心を支配していた。
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