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「VHSって何ですか?」 「知らないの? まあ、君の時代じゃ分からんかぁ」 全く想像つかない。 DVDみたいな?、って聞いたら、そうそう、と上司は少し寂しそうに笑った。 ――― 「ビデオのことよ。昔良く撮ったわよー」 その日の晩、母親に聞いてみたらあっけらかんと答えてくれた。 VHSだなんて言い回し、久々に聞いたなーて言いながら少し楽しそうに 母は押し入れの中から段ボール箱を引っ張り出してきた。 「え、これ全部そうなの?」 「そうよー。なかなか、思い出のものって捨てられなくて」 段ボールの蓋を開けると、黒い塊がぎっしりと詰められていた。 しかも、ご丁寧に背表紙にはタイトルまで書いてある。 「お? えらい懐かしいモンを出してきたなぁ」 風呂上がりから戻ってきた父親も会話に参加しはじめた。 その表情はどこかまた楽しそうであった。 「あら、アナタ。直美が、懐かしいモノを言うから」 「直美が?」 「部長との会話で出てきてさ、ウチにもあるんかなーって」 「今じゃあまり見かけないもんなぁ。それにしても、いやはや……懐かしい」 「今夜、これ見ませんか?」 「えっ、やだよ。恥ずかしい!」 母親の提案に思わず声を上げてしまった。 こんな歳になって、家族でビデオ鑑賞だなんて…… 「お前が言い出したんだろう?」 「いや、言ったけど! 見るとは言ってない!」 「まあまあ、いいじゃないですか。タイムカプセルみたいで」 面白いじゃないですか、と見る気満々で 一緒に仕舞われていた機材も押し入れから取り出してきた。 こうなったら、否定も出来ずしぶしぶ見ることになった。
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