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「ここで、いいです…。帰って、ください」
どうにかこうにかマンションまでひどい醜態をさらすことなく辿り着いた俺は、玄関先まで付いてきた社長を中には入れずに締め出そうとした。
しかし、
「……こんな状態の君を置いて帰れるわけないでしょう?」
普段はわりと俺の言うことには素直に従う彼も、この時ばかりは強引だった。
「いいって…言ってる…! あんたが、いなきゃ…少しは…マシ…」
「……そんなに私が嫌なのか」
そう言いつつも、ドアの内側に身を滑り込ませ、侵入を果たしてしまう。
俺は、ようやく自分の判断がとんでもなく間違っていたことに気付いたが後の祭りだった。
社長は留置所にぶち込んでもらって、俺はあの親切な警察官と病院へ行くべきだったのだ。
ヒート中は思考力も判断力も著しく低下すると話には聞いていたが、これほど自分がアホ化するとは思っていなかった。
「でも、躰はαを欲している」
見抜かれて…いや、見抜くまでもない、――それはもはや誤魔化すことさえ滑稽なほどあからさまに俺は欲情していたから。
それでも、わずかに残った理性が叫ぶ。
(一度も、ただの一度も俺をΩとして見たことなどないくせに…!)
心が悲鳴をあげる。
「い…やだ…! あんただけは…、い…ッ!?」
普段は涼しい顔で取り澄ました社長らしからぬ乱暴さで唇を塞がれた。
荒々しく歯列を割り、舌が己のそれを絡めとり吸い上げられる。
……理性がそれで一気に崩壊した。
後はもう、互いに本能のままに貪る、二匹の獣と成り果てた。
玄関は床も壁も飛び散った俺の白濁に汚れ、廊下はいろんなものが混ざった体液の筋がつき、寝室のベッドはスプリングが一部破損し、シーツは二度と使えない有様になった。
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