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いつか、夢川の本物の『運命』が現れて、全部、一切合切が、夢のように跡形もなく消えてしまうのではないかと――。
そんな馬鹿みたいな想像に怯えていた。
「――不安なのは私も一緒です」
穏やかな夢川の声が俺の嗚咽の隙間をぬって、涙に溺れた心に明かりを灯す。
「いつか君に捨てられるかもしれないと、私も怖れていた。……君がそんな無情な真似をするはずないと知りながら、それでも私は恐れ……、無理矢理にでも番ってしまおうと何度も何度も思いました」
夢川の手が俺の涙を優しく拭う。
俺が、最初に好きになった部分。
俺を慰める手はとても柔らかく俺に触れる。
「でも、できなかった。一度、私はとても君にひどい真似をしてしまっているから、たぶん二度は許されないと思っていた。君を失うくらいなら、『番』になれなくてもいいと、そう自分に言い聞かせて、……ぎりぎりの自制心で耐えていました。――後悔ばかりです」
「…一緒だ…」
――もしもあの時こうしていたら。
何度も、そんな想いにかられたのは俺も同じだった。
夢川が事故に遭い、何度そうやって悔やみ、自分を責めたかわからない。
数え切れないほどの後悔の山に埋もれ、喘いだ。
俺たちは、二人して別々の場所を向いて悩み、苦しんでいた。
「ばかみたい…ですね」
「私が…?」
「いえ、社長も…俺も」
こうやって向き合って、ちゃんと気持ちをさらして、ぶつかり合えば良かったのに。
でも、――長い年月を悩んで、悩みぬいたからこそ、こうやって向き合えたのかもしれない。
俺にとっても、夢川にとっても、ここまでの道程は、決して簡単なことじゃなかった。
月日を超えたから、俺は夢川の苦悩の深さと誠実さを実感できたし、――たぶん夢川も同様だろう。
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