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――『うんめいのつがい』って、どんな感じですか?
――すぐにわかるんですか?
「『運命の番』に会うと、ビビビって雷みたいな電流が走るんだ」
「いや、私が君に出会ったときには、盛大な鐘の音が鳴り響いたよ」
「すぐにわかるさ」
「だって『運命』だからね」
幼い頃、自分にそう教えてくれたのは、結婚を間近に控えた叔父とその番だった。
――とっても良いにおいがするってほんとうですか?
「『番』の香りは特別」
「心地よくて、安心して、でも、それ以上に躰を……」
「ちょっと待って子供に何を教えようとしているの?」
「何も? 表面的なことだけだよ。――君のかぐわしい匂いがどんな風に香るかなんて、たとえ身内であろうとおいそれと教えるわけはないだろう?」
「そうじゃなくて…もう、…からかうなよ」
「かわいい人…私の唯一」
「僕にも、あなただけ…、僕の『運命』」
彼らはとてもとても幸せそうだった。
彼らの向こうには、前夜から降り積もった雪景色が広がっていた。
窓から見える外の景色は白銀に彩られ、昨晩の吹雪が嘘のように晴れ渡った空から降り注ぐ温かな陽光に照らされ、きらきらと……まるで彼らの前途を祝福するように輝いていた。
それは、とてもとても美しく、幸せな情景だった。
幼い無垢な子供に憧れを抱かせるに十分すぎるほどの幸福に満ちていた。
――運命の番は特別なもの。
その光景とともに、幼かった夢川の胸にそれはしっかりと刻み込まれた。
叔父たちに悪気はなく、決して間違いでもなく、それは確かに一つの真実でもあった。
ただ、彼らが口にした答えは、そうと意図せぬままに、……純粋だった子供にとって洗脳にも等しい働きをなし、人格形成にも少なからぬ影響を及ぼす結果を招いたのである。
そうして、幼い時分に植え付けられた印象は、ずいぶん長い間…夢川を惑わし続けることと相成った……。
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