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『運命の相手だと、彼は私にそう言ったんです。無理して笑うことはないと…、笑いたいときに笑えと』
副会長は儚げに笑ってそう言ったが、肝心の転校生は他のαの番になり、もうこの学園にはいない。副会長は失恋したのだ。
しかし、やはり俺は――知っていた。
あの転校生は、副会長だけではなく、会長にも会計にも果ては保健医や担任や…学園の目ぼしいα全員に「運命の番」と云いまわっていたことを。
ちなみに俺の見立てでは、本命は生徒会長だった。
そして、会長様は表面的には構って見せていても、実のところまったく転校生を相手にしていなかった。他の生徒会役員も同様である。
(だけど、一人だけそれを信じてた人がいたんだな……)
まさかそれが学年主席の副会長だとは思わなかったけど。
(なんて…なんて…なんて…)
――なんてチョロい人なんだ…!
生徒会のメンバーのほとんどはわかっていると思っていたのに、わかってない人がここに居た……。
しかも副会長である。
この人、腹黒で沈着冷静なインテリキャラが売りじゃなかったのか…?
すっごい頭が切れるから生徒会長直々に副会長に指名したって聞いたのに、なんか俺の知ってる情報とかなり隔たりがあるんですけど?
後に、俺は会長から聞くことになる。
「あー、あいつなぁ…、他は完璧なんだけど、恋愛方面だけはからっかきしなんだよね。恋に恋する夢子ちゃんだから」
名字が夢川だからかな、と朗らかに会長様は笑っていらっしゃった。……でも、ほんのりその笑みには黒さが混じっていたのを俺は見逃さなかった。本当の腹黒様は会長様だった。会長、コワイ。
そんなこんなで、俺は副会長の失恋話から思わぬ人の思わぬチョロさを知り、衝撃を受けたのである。……自分の失恋のショックを忘れるほどに。
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