運命のΩ

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『あいつはいずれたちの悪いΩにでも掴まって、身代を潰しそうだったからな。……あそこのグループ会社に総崩れになられるとさすがにうちも無傷とはいかない』  とは、今は懐かしい生徒会長の言である。……いや、ときどきパーティー会場や会合なんかで顔を合わせるからそう懐かしい顔でもなかったな。つい先日も会ったばっかりだし。  副会長が番選びに失敗しないように生徒会に引き入れた、というのが事の真相のようだった。 『そこ以外は、文句のつけどころがないくらい優秀な人材だからな。卒業するまでになんとか良い補佐役を見つけたかったが、なかなか適任者がいなくてね……いや、ぎりぎり間に合ってよかったよ。さすがに卒業してまで面倒見たくはなかったからね。よろしく頼んだよ』  そう笑顔で押し付け、肩の荷が下りたといわんばかりにすっきり晴れ晴れとした会長の顔が今でもしっかり脳裏に焼き付いている。……こういうのをほんとーの腹黒と云うんだな、と俺は齢十六にして学んだ。  夢川は、とにかく「運命」という言葉に弱く、ころっと騙される。  さすが、夢見る夢子ちゃんだけのことはある。  それでも、いい大人なんだから、ある程度は見逃していたし、社会人になってからはよっぽどでなければ口には出さず見守るスタンスでいた。  ただし、一つだけ固く約束したことがあった。  これを破ったら補佐を辞めると言ってある。  ――首は()むな。  どんなに盛り上がっても、相手の発情に煽られても、……たとえ、その相手が「運命」だと思っても。  αはΩのうなじを咬むことによって、己の唯一の(つがい)と定める。  番との繋がりは深く、簡単には断ち切れないものだ。……所詮、法律上の繋がりでしかない結婚などよりも、もっと重く…、一度番として契約してしまえば、両者の精神も肉体も強固に縛るものだった。  だからこそ、恋にのぼせ上り、軽々しく相手のうなじを咬むなど決してあってはならない。
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