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……原因は、なんとなくわかっている。
社長のせいだ。
(あの人があんな馬鹿なことを言いだすから…)
躰が勘違いして、勝手にαを――社長を求めたのだろう。
「……君、大丈夫か? もしかして、……ヒートか?」
上体をビル壁にあずけ、なんとかやり過ごそうとしていた俺に声をかけてきたのは、俺より少し年かさに見えるスーツ姿の男だった。
……αじゃないと瞬時にフェロモンを嗅ぎ分ける自分の特質に嫌気がさす。
Ωというのは、これだから馬鹿にされるのだ。自分の意思も相手の意志もお構いなしに、発情し、αを求める。快楽を欲する。そんなイキモノだから。
「薬は?」
俺は首を横に振った。
こんな強いヒートを抑える薬など持ち歩いていないし、家にだってない。
「……まいったな…、…あ、安心しろ。俺は警察官だ」
「…え?」
まさか警察の人間だとは思わなくて、驚いた。
さっと警察手帳を呈示する仕草が堂に入っている。
驚きはしたものの、確かに声にも態度にもはじめから下心などは一切見られなかったから、納得もした。
「家は遠いのか?」
今度は首を縦に振る。
「なら、この近くに個人病院があるから、そこへ連れて行く。それでいいか?」
さすが警察官。判断が適切だ。それに、この人カッコいい。αじゃなくても惚れそう。……俺は運よくいい人に拾ってもらったらしい。
しかし、親切な警察官に付き添われ、病院へ歩きだそうとした俺たちの前に人影が立ちはだかった。
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