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「彼をどこへ連れてゆくつもりですか」
険しい声でそう詰問してきたのは、俺の上司であり先ほど置き去りにしてきた夢川社長その人だった。
彼は俺の腕を掴み、自分の方へと引き寄せようとした。そんな些細なことでも俺の躰は馬鹿みたいに快感に震え、泣きたくなった。
それを親切な警察官が阻止し、俺を背に庇おうとする。
「具合が悪そうだから病院へ連れて行くところだ」
「病院? ――そう言ってそこらのホテルにでも連れ込むつもりでしょう」
「はぁ? そんなわけあるか。あんたこそαだろ? ヒート中の相手に軽々しく触れるな。さっさと離れろ、煽られたいのか。だいたいあんたはなんだ? 邪魔するなら公務執行妨害で留置所にぶち込むぞ」
……案外、血の気の多い警察官だったらしい。
一触即発の雰囲気に、これはマズいと俺は苦しい息の合間になんとか説明する。
「あ…ちが…だいじょ…ぶ、です。この人…おれの、上司…なんで……」
「上司?」
「りゅうち…じょは、だからかんべん…して…」
社長が警察のご厄介になるわけにはいかないだろう。
とにかく社長を守らなきゃ、庇わなきゃということで頭が一杯になった。
長年の習性というのは恐ろしい。
だから、俺はこの時、間違った判断をくだした。
警察官から身を離し、社長の手を取ってしまった。
「親切…ありがとう…ございました。……社長、行きましょう」
「おい…!」
「――失礼します」
礼儀正しく慇懃無礼な仕草で男前な警察官に頭を下げた社長は、その警察官を振り切るようにすぐさまタクシーを捕まえて俺と一緒に乗り込むと、俺が一人暮らししているマンションへ向かうよう運転手に行き先を告げた。
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