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「……ごめんなさい……」
取り繕うように詫びると、もう後が続かなくなる。黙って俯くしかない私に、陽ちゃんは小さく溜め息をついた。
「いや、俺が悪い。プライベートなことまで首を突っ込み過ぎた。まどかのことを考えていたつもりだったのに、気持ちのほうを良く考えていなかったよな」
ごめん、と頭を下げる陽ちゃんに、ますますいたたまれない気持ちになる。今まで見えなかったり、解明できなかったりしたいろいろなことが、『陽ちゃんが好き』というパスワードですべて明白になっていく。
そうか……そうだったんだ。陽ちゃんのことが好きだから婚活イベントにも出たくなかったし、孝輔と片倉さんから告白された時も心が動かなかった。
そしてさっきの苛立ち。一番好きな人から他の男性との幸せを願われるなんて、これ以上のやるせなさがあるだろうか。私にとって最高の幸せがあるとしたら、それは陽ちゃんなしにはありえない。だからこそ知ってほしい、わかっていてほしいとムキになってしまったんだ……。
「……許してくれるか?」
優しい声が、優しく問う。艶やかで、穏やかな、安心できる大好きな声。許すもなにも陽ちゃんに非はない。私が勝手にイライラしているだけ。でも素直にそうとは言えなくて、私は黙ったまま頷いた。
「良かった。じゃあ、部屋に戻るか」
安堵した笑顔に胸が苦しくなる。先に立って歩き出した背中にそっと溜め息をつくと、鮮烈なデジャヴを感じた。
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