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さっきの私は陽ちゃんの前で一体どんな顔をしていたんだろう? おまけに公衆の面前で取り乱したりして……恥ずかしいったらない。
新鮮な羞恥心にのた打ち回りたい気持ちでいると、そんな私を更に追い込むようにある場面が鮮明に蘇った。橘と決別したあの夜、店の裏で泣きながら陽ちゃんに抱き付いてしまった時のことだ。
「ぬわーっ!」
たまらず叫んだと同時に今度は咳込まずにはいられなくなる。ふとした拍子にハミガキ粉がおかしなところに入ってしまったらしい。
「ちょっと、さっきから何やってんの? 大丈夫?」
布団に入ってスマホをいじっていた月菜に失笑される。本当に何やってんだろう、私……。
「まどかちゃん、大丈夫?」
本を読んでいた真珠ちゃんが背中をさすってくれる。おかげでどうにか落ち着きを取り戻し、私も布団に入った。
「電気消すわよー」
葉子おばちゃんの一声でシーリングライトが消え、床の間の小さなダウン灯だけになる。薄暗い中で天井の梁を見つめていると、やっぱり陽ちゃんの顔が浮かんできて、私自然と将来のことに思いを馳せた。
私は陽ちゃんのことが好きだ。この気持ちを伝えていいのかな? もし伝えたら私たちはどうなるんだろう……?
恋すると人間は愚かになるというけど、私もご多分に漏れないようだ。厚かましくもすべてが上手くいって、陽ちゃんと結婚するところまで妄想してしまい、慌てて布団を被る。こんな調子ではとても眠れそうにない。
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