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なんとか落ち着こうと努めると、私の有頂天ぶりに水を差すように静かな声が脳裏に響いた。
『再婚は考えていないんです』
牧さんがお見合い写真を持ってきた時、陽ちゃんはキッパリとそう断った。百瀬さんにも『再婚しちゃいけないんだ』って話したって……。
恩人の牧さんに対してもあれだけ頑なに拒んだのだから、陽ちゃんの気持ちはずっと以前に決められて、長い時間を経て、なにがあっても揺るがないほどの強さを持つようになったのだろう。
それがなぜなのか、本当のところはわからない。月菜が推測していたように『御厨家の呪い』を信じているせいなのか? それとも、もう引きずっていないと言ってたけど、やっぱり亡くなった杏子さんのことを今も愛しているから? もしくはその両方? いずれにしろ、陽ちゃんの心に私が入り込む余地はもうないんだ……。
告白する前から実らない恋なのだと判明し、打ちひしがれた私は布団の中で身を縮めるように、震える自分を抱きしめた。上腕を掴むと、ラウンジバーで陽ちゃんにそうされた感触がよみがえって全身が粟立つ。きつく目をつぶると、その感触がそっくり苦しさに変わって涙があふれてくる。
歓喜からの、この落差。橘にフラれた時とまるで同じで、横になっているのにひどいめまいが襲ってくる。
どうして私は陽ちゃんを好きになってしまったんだろう? こんな気持ちになるのなら気付かなければ良かった……。
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