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「でも……それってやっぱり辛いよね?」
しつこく弱音を吐くと、星ちゃんは「くどい!」と怒った。
「お前なぁ……陽ちゃんだぞ? 御厨陽一だぞ? あんなにいい男が、そう簡単に都合良く手に入るわけないだろ、おバカ!」
お、おバカって! ──い、いや……確かにそうかも。また一人で勝手に盛り上がって、自滅して。本当に悪い癖だ。
「星ちゃんの仰るとおり、私は身の程をわきまえない大バカ者です……」
猛省すると、星ちゃんは「まったくもう」と苦笑した。
「だけど、そう考えれば心持ちも変わると思わないか? 人気店の最高にうまい料理を食べるには、長い行列を覚悟しなくちゃならないのと同じだ。でも間違いなくそれだけの価値はある。我慢して待つまどかも、きっと成長できるよ」
「うん……。そうなれるといいなぁ」
悟りの方向へ歩み出せた私は、さっきとは比べものにならないくらいの穏やかな気持ちで傍らの親友を見上げた。
「星ちゃん、ありがとう」
ウットリするような優しい笑顔が応えてくれる。それにつられて自然と私の口元もほころんだ。
幸い私は陽ちゃんに何も告げていない。昨夜は少し気まずかったけれど、それ以外は良くも悪くも何の変化もおきていない状態だ。
それなら今はまだこのままでいい。できるだけ普通にしていよう。告白さえしなければ、好きでいても迷惑はかけないはず。
いつかそれが辛くなる時がくるかもしれないけれど、それでも私は陽ちゃんの傍にいたい。離れたくない。
そう思うと胸の奥がチクリとした。それは、とても甘美な痛みだった。
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