5.魂を運ぶラザニア

3/86
前へ
/388ページ
次へ
 陽ちゃんのこと、片倉さんのこと、自分の将来。その一つ一つと向き合おうとすると、情報や考えるべきことが多く、いつの間にかあちこちに思考が及んでしまい、全然はかどらない。かといって頭から完全に切り離すこともできないのだから困ったものだ。  何度目かわからない寝返りを打つと、不意に陽ちゃんの顔が浮かんできて胸がざわめいた。  秋保からの帰路、私は星ちゃんの車に乗せてもらった。陽ちゃんの車だと気まずいから避けた、というわけではなく、単純に帰る行き先で御厨家とそれ以外に分かれただけなんだけれど、内心ホッとしたのは言うまでもない。  「気をつけてな」と笑顔で送り出してくれた陽ちゃんに手を振り返したけれど、やっぱりまともに顔を見ることはできなかった。  星ちゃんの車が温泉街を抜けて県道へ出ると、無意識に大きな溜め息が出る。百瀬さんは初めて陽ちゃんの寝顔を見ることができたらしく、その感動と喜びを余すところなく伝えて素晴らしく上機嫌。宴会後におんぶされたことを覚えていないという痛恨のミスをおかしたものの、そのぶん早く寝たおかげで陽ちゃんより先に起きられたということらしい。  大興奮の百瀬さんとは異なり、最高に寝不足だった私はいつの間にかコックリコックリと眠気に襲われ、図らずも孝輔の肩を借りて眠ってしまっていた。何かの拍子で目が覚めると、すぐそばに孝輔のキラッキラした笑顔があって「うがっ!?」とビックリ。  孝輔は「今年のスルーをすべて帳消しにする、最高にステキなモーメントだったよ!」とニヤニヤ──もとい、ニコニコしてたけど……。
/388ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1079人が本棚に入れています
本棚に追加