5.魂を運ぶラザニア

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 う~ん、まただ。こんなふうに記憶や想いがごっちゃになり、問題の本質から外れて行って、また振り出しへと戻ってしまう。もしかすると無意識に考えるのを避けているんだろうか? これも逃避行動なのかな。  なるべく普通にしていよう──そう決めたはずのに、かえってとらわれているみたい。頭の中もコンピュータみたいにデータを消去したり、圧縮できたらいいのに。 「陽ちゃんを好きだということはしまっておく。そう決めたんでしょ」  見失ってばかりの自分にそう言い聞かせる。すると今度は当たり前のように片倉さんのことが頭に浮かんできた。  自分の気持ちがハッキリとわかったのだから、恋人として付き合うことはできない。それはきちんと伝えるつもりだ。 彼のようにステキな男性が私みたいなやつを好きになってくれたなんて未だに信じられないけれど、そのおかげでこんな私にもちょっとは価値があるのかな? って思えたのは、本当に嬉しかったし、ありがたかった。  要領のいい人なら陽ちゃんにフラれた時のために片倉さんをキープ……とかしちゃうのかもしれないけど、そんな大それたことは絶対に無理。第一、真摯に想ってくれる片倉さんに失礼だし、その気持ちに応えられないなら、私にできるのは、同じように真摯な対応をすることだけだ。 「片倉さんにはちゃんと断わる」  こちらは声に出しても気持ちが揺らぐことはなかった。思わせぶりな態度は良くないから、早く伝えてしまいたいという気持ちもあったけれど、一方的に伝えて「はい、さようなら」では、あまりに身勝手だ。片倉さんも年末で忙しいのかもしれないし、もう少し待ってみよう。
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