5.魂を運ぶラザニア

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『承知したでござる』という、おサムライがサムズアップしたスタンプだ。イラストのコミカルなタッチと、『わかりました。僕も話したいと思っていたのでちょうど良かったです』という返信にそっと安堵の溜め息がもれる。  良かった、やっぱりわかってくれたみたい。これで少しは話を切り出しやすくなるし、片倉さんもいろいろと心積もりをしてきてくれるだろう。  会う時間を決めてスマホを閉じると、何かが大きく前へ進んだ感じがした。私の選択によってレールのポイントが切り替わり、ゆっくりと列車が動き出したような。 *     *     *  2016年・元日。  昨夜は英理姉が泊まりに来て、年が明けるまで家族で宴会。そのおかげで鬱々することもなかったし、気持ち良く酔っ払ってぐっすり眠ることができたけれど、そのせいで寝坊してしまい、ハッと起きた時にはもう九時過ぎ。 慌てて支度をしていると、約束の十時を少し過ぎた頃に玄関のチャイムが鳴った。迎えに来てくれる約束だから、まちがいなく片倉さんだろう。 「うわーっ! 行ってきまーす!」  なんとかギリギリ間に合ってリビングダイニングを出ようとすると、お母さんと台所に立っていた英理姉がお玉を手に振り返った。なんでも『桜木家のお正月』を学ぶのが目的で泊まりにきたらしい。 「まどかさん、お雑煮食べていかないの?」 「ぬわーっ! ごめんなさい、帰ってから食べまーす!」  ドタバタと慌ただしい私に、むっちゃんがヤレヤレと頭を振る。 「新年早々やかましい。そんな調子で出掛けたら怪我するぞ。中二の正月に浮かれて階段から転げ落ちたのは誰だったっけなぁ?」  くっ……! バラすなよ、兄……。
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