5.魂を運ぶラザニア

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 インターフォンのモニターを確認すると、訪ねてきたのはやはり片倉さんだった。私がグズグズしているので不安になったのだろう。ここで間違いないよな? というふうに辺りを見回している。 「はーい、おはようございます。ごめんなさい、今下りて行きますので」 『ああ、おはようございます。ゆっくりで大丈夫ですよ』  片倉さんの艶のある声を聞きつけたお母さんが、菜箸を持ったままモニターを覗きに来る。 「あら! この人が片倉さん? 男らしくて優しそうな人ねぇ。もう付き合ってるの?」 「ううん。そういう付き合いじゃないの」  きちんとしておかないと要らぬ誤解を招くかもしれない──そう考えてハッキリ否定すると、むっちゃんから「なんでだよー」という非難の声が上がった。 「俺イチオシの最優良物件だぞ? 十年に一度出るかどうかってくらいのレア物なのに」  うっ……。片倉さんがステキだってことは重々承知しておりますよ。だけどさ……。  自分の気持ちを説明すべきだろうか? そもそも今後どうなるかわからないのに、今の段階でみんなに話す必要ってあるのかな? などと考え込むと、英理姉が優しくむっちゃんを(いさ)めた。 「あらモンシュー、いくら条件が良くてステキでも、心が動かないのなら駄目なのよ。逆に昔から慣れ親しんだものの素晴らしさに気付くことだってあるしね」  こっそりと英理姉にウィンクされ、たちまち顔が熱くなる。もしかして……私が誰を好きか気付いてる!?  思わず絶句した私にウフフ、と意味ありげな笑みを返し、英理姉は「さぁさぁ、あまりお待たせしたら失礼よ」と送り出してくれた。
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