5.魂を運ぶラザニア

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英理姉といい、星ちゃんといい、みんなはとっくに(さと)っていたのに、本人が一番遅く気がつくって……。どんだけポヤヤンとしてるんだろ、私。 そういえば百瀬さんからも『あんなに近くにあるものに気付いてない』とか、『目が腐ってるのか』って言われたけど……あれってやっぱり、私の気持ちを知っているってことだよね……。 「くっ……」  今更ながら恥ずかしさが込み上げてくる。だけど、陽ちゃん大好きな百瀬さんが私を邪魔者として排除せず、いろいろと心配してくれていたことについては、面映ゆい嬉しさと素直な感動を覚えた。  婚活イベントに出るなって言ったり、片倉さんの存在やアプローチに反発の姿勢を見せたり……。おそらくあれは「早く気付けよ、アホ」とイライラしながらも、橘のことから立ち直ったばかりの私を慮ってくれていたのだろう。 ううっ……みんなに心配をかけて、さりげなく気を配ってもらって。あの時、あの言葉、あの表情──思い当たる節があり過ぎて、なんとも居たたまれない気持ちになる。 でも今は片倉さんと初詣に行って、自分の気持ちをきちんと伝えるのが先。恥ずかしさにのたうち回るのは帰ってからにしよう。  ブーツを履き、羞恥心を振り切るように勢い良く玄関の扉を開くと、片倉さんが少し驚いたようにこちらを振り返る。目が合ってお馴染みのふにゃっとした笑みが浮かぶと、安堵と共に僅かな罪悪感が胸を過った。 「あけましておめでとうございます。寒い中お待たせして申し訳ありません」  どこか取り繕うような気持ちで挨拶すると、片倉さんは全然構わないというように頭を振ってから、「あけましておめでとうございます」と丁寧に一礼した。
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