5.魂を運ぶラザニア

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「好きな人を待つのは苦にならないですよ。今年最初に会う人がまどかさんでとても嬉しいです」  グハッ!? そんな赤面しちゃうようなことを『今日はいい天気ですね』みたいにサラッと言っちゃうんだもんなぁ……。こうも面と向かって率直に言われると、どう反応していいのかわからなくなる。  思わず固まった私を見て、甘やかに微笑んだ片倉さんは、何事もなかったように「行きましょう」と促した。  玄関からの狭い道を抜けて商店街の通りへ出ると、元日だけあって開いているお店はほとんどゼロ。車の往来も少ないけれど、歩いている人は結構多く、すれ違った家族は破魔矢や大きな熊手を手にして楽しそうだ。おそらく美杜稲荷神社へ行ってきた帰りなのだろう。  あら? そういえば行き先を聞いてなかったけど、どこの神社へ行くんだろう? 仙台で初詣といえば、愛宕神社(あたごじんじゃ)櫻岡大神宮(さくらがおかだいじんぐう)、護国神社、大崎八幡宮、仙台東照宮あたりが有名で人出も多いけど……。そう問うと、片倉さんは迷うことなく即答した。 「美杜稲荷へ行きましょう。有名な神社もいいですけど、やっぱり氏神へお参りするのが一番だと思います。まどかさんのお宅は美杜稲荷の氏子でしょう?」  あれれ、そうなのかな? 確かにお宮参りも七五三も美杜稲荷だったけど、我が家はお父さん意外あまり信心深くないからよくわからないや……。帰ったら聞いてみようかな。  さて、ミクリヤの十字路から右へ曲がって門前通りを進むと、普段ひっそりとした境内はたくさんの参拝客で賑わい、献灯の提灯(ちょうちん)がズラリと飾られていたり、神社名が染め抜かれた大きな(のぼり)がたっていたりして、こぢんまりとしながらもお正月らしい雰囲気に包まれている。
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