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突然のことで言葉を失う私に、片倉さんは「これでよし」と微笑んだ。
「風邪をひいたら大変ですからね。今日のような寒い日は首元を冷やさないほうがいいですよ」
「でも……それでは片倉さんが風邪をひいてしまいます。私は大丈夫ですから」
慌ててマフラーに手を掛けると、片倉さんは悠然とした態度で押し留めた。
「いいんですよ。僕がお節介をやきたいんですから」
首を傾げるように「ね?」とニッコリされると何も言えなくなる。
ううっ……優しいなぁ……。優し過ぎて、これから伝えなくちゃいけないことが、ますます伝えづらくなってしまう。
「せっかくだから甘酒をいただいていきましょうか」
そう促され、鈍りそうになる決心を抱えたままテントへ立ち寄る。クリーニング屋のおばさんに甘酒を二杯お願いしていると、鳥居の方から私を呼ぶ人がいた。
「まどかちゃーん! あけおめー!」
元気な声に振り返ると、そこにいたのは真珠ちゃんと友達の美咲ちゃん。その後ろには──よ、よ、よ、陽ちゃん!?
「はうあ!」
突然過ぎるあまり、顎が外れたみたいに口をあんぐり開けて固まる私に、真珠ちゃんと美咲ちゃんはキョトン顔。陽ちゃんはテントにいる人たちと同じ法被を着ており、いつもと変わらない様子で穏やかな笑みを浮かべた。
「あけましておめでとう。今年もよろしくな」
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