5.魂を運ぶラザニア

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 それから真珠ちゃん達は学業成就のお守りを買い、私は少しでも運が良くなるように、用意された場所におみくじを結んだ。  陽ちゃんとの思わぬ遭遇で動揺しちゃったけど、凶のおみくじを引いたせいでテンションが急降下し、なんだかフラットな気持ちになれた感じがする。もしかしたら、パニくっている私に、美杜稲荷の神様が『ちょっと冷静になりなさい』って戒めてくれたのかも……。  図らずも気持ちを整えられた私は、人込みを縫って真珠ちゃん達とテントへ戻った。陽ちゃんと片倉さんが何か話しているようだけど、お参りの鈴の音や呼び込みの声など、周りの賑やかさで内容までは聞き取れない。 「お父さん、ただいま~」  真珠ちゃんの一声に二人がハッとしたように振り向く。 「ああ、おかえり。甘酒飲むか?」  もちろん、という私たちに陽ちゃんが早速用意してくれる。甘い香りと手に伝わるじんわりとした温かさ。一口飲むと、トロッとした舌ざわりの中にショウガの香味が微かに感じられる。寝坊して何も食べてこなかったから、余計に染み渡るようだ。 「おいしい」  人心地ついた私に陽ちゃんが微笑む。湯気の向こうの優しい表情に改めて胸がいっぱいになる。やっぱり私、この人のことが好きなんだ。 「じゃあ僕たちはそろそろ失礼しましょうか」  たちまち募っていく愛しさは、ちょうどお鍋が噴きこぼれるみたいで、片倉さんの一言は、まるで差し水のように私を現実へ引き戻した。 「あ……はい。そうですね。じゃあ陽ちゃん、ごちそうさまでした。真珠ちゃん、美咲ちゃん、またね」 「ああ。気を付けてな」  いつものように心配してくれる陽ちゃんに頷き、「バイバーイ」と元気な真珠ちゃんたちに手を振って別れる。
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