5.魂を運ぶラザニア

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なんだかその後は振り返っちゃいけないような気持ちになって、鳥居をくぐるまでは片倉さんも私も黙ったままだった。  これから参拝する人々とすれ違いながら、邪魔にならないように門前の駐輪場で立ち止まると、片倉さんが「さてと」と私を見下ろした。 「この後はどうします? 昼にはまだ少し早いですけど、どこかで何か食べながら話しましょうか?」 「そうですね……」  大事な話だし、できればガヤガヤした賑やかなところは避けたい。といっても、美杜町だと元日はお休みのところが多いし……。ちょっと電車に乗って駅前や別の町へ行くという手もあるけど、きっとどこも混み合っているだろう。かといって公園じゃ寒いしなぁ……。話す内容にばかり気を取られていたけど、肝心の場所を決めていなかったのはウッカリしてたよ。  なかなかいい案が出ない私に、片倉さんは腕時計で時間を確認すると、通りの左右を見渡しながら「うーん」と唸った。 「この辺だと開いている店は少ないですよね。もし良かったら家へ来ませんか? ここから歩いて七、八分くらいです」  えっ!? 「片倉さんのお宅に、ですか? でも……」  思いがけない提案にどう反応したら良いのか困ってしまう。いくら片倉さんがいいと言ったって、どこの誰とも知れない私が元日にいきなりお邪魔するのは失礼だろう。それに……もし誰もいなくて二人きりだったら?  瞬時にいろんなシミュレーションをする私を見て、片倉さんは堪えられないように失笑した。 「なんだかずいぶん警戒されてますね」 「あっ、いや……その……す、すみません……」  笑われちゃうほど顔に出ていたのかと思うと、恥ずかしさで顔が熱くなる。
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