5.魂を運ぶラザニア

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 神社から住宅街を歩き、1ブロック先は隣町という美杜町の端に片倉さんのお宅はあった。以前は和風の古い建物だったらしいんだけれど、震災の時に半壊したのをきっかけに建て替えたらしく、現在はクリーム色の壁にオレンジ色っぽいスペイン風の屋根瓦でガッツリ洋風。玄関ポーチや窓も欧風のアーチ型で、門扉からは庭に植えられたソテツの木が見えた。 「うわぁ、可愛い~!」  あまりにもステキでエキサイトする私に、片倉さんは「そうですかねぇ」と苦笑いしながら(くろがね)の門扉を開けた。 「建て替える時、母の好きにしていいって言ったらこうなったんです。ちょっとメルヘンチックですよね……」  えぇ? そうかなぁ? すごくいいと思うけど……。お家の中はどんな感じなんだろう……楽しみ!  これまたステキな敷石のアプローチを歩き、片倉さんが玄関の扉を開けて帰宅を告げると、奥の方から「はーい」という元気な女性の声が返ってきた。 「さぁ、どうぞ。母はざっくばらんな人ですから、気楽に構えてもらって大丈夫ですよ」  片倉さんはそう言うけど、やっぱりちょっと緊張する。ほどなくしてパタパタというスリッパの足音が聞こえて、突き当りのドアが開いた。  姿を見せたのは紺色の着物の上に羽織姿の女性。六十代半ばくらいだろうか。優しそうな目元といい、おおらかな雰囲気もソックリ。一目で片倉さんのお母さんだとわかる。 「あっ、はじめまして。桜木まどかと申します。今日は急にお邪魔して申し訳ありません」  慌ててご挨拶すると、お母さんは私を見て「あらまぁ」と目を細めた。 「はじめまして。亮平の母でございます。良く来てくださったわねぇ。外は寒かったでしょう? ささ、上がってくださいな」 ハキハキとした滑舌の良さと通る声もお母さん譲りみたい。
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