5.魂を運ぶラザニア

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 まだ食べてもいないのに、なぜハゼ出汁だとわかるんだ? と思われたかな? 答えはカンタン。出汁を取ったハゼの焼き干しそのものが一匹まるごとトッピングとして鎮座しているから。  他にも千切りにしたダイコン、ニンジン、ゴボウなどを茹でて、それを屋外に一晩干して凍みらせた『ひき菜』と、凍み豆腐、里芋の一種である『からとり』なども具になる。出汁のメインの味付けはお醤油で、セリとはらこ(いくら)をトッピングするのも、海あり山ありの仙台らしい特徴。  しかしながら、現在ではハゼの焼き干しも高級品となり、一般家庭でお雑煮の出汁に使っているところは少ないんじゃないかと思う。 桜木家は仙台らしさ皆無の鶏肉使用だし、私がハゼ出汁のお雑煮をいただくのは、小学生の頃に星ちゃんのお家でご馳走になって以来じゃないだろうか。 「今じゃハゼの焼き干しも高級食材だものね。いつもは米沢風なんだけど、せっかく仙台に住んでいるんだし、ウィリアムに仙台の文化を体験してもらうためにも、一度くらいはちゃんとしたお雑煮を作ってみたくて」  というわけで召し上がれ♪ と促すお母さんに、箸を手にしたウィリアムさんが「これはなに?」と存在感たっぷりのハゼについて尋ねる。  お母さんが間髪置かずに真顔で「百年物の魚のミイラよ」と言ったものだから、三人は顔を見合わせて「マジか!?」という表情。 「正月に食べるものはちゃんと意味があるんだよね? これを食べて、来世での復活を願うの?」という、ウィリアムさんの前向きなフォロー解釈には、片倉さんからの訂正と併せてみんなで大笑いしちゃった。
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