5.魂を運ぶラザニア

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 いただいたお雑煮は、やはりハゼ出汁独特の風味が際立つ。市販の出汁とは一線を画す上品で澄み切った、それでいて濃厚な味わい。それが野菜の旨味、醤油やお酒などの調味料と相まって、一口飲むたびにほうっ、と感嘆の息をもらさずにはいられないおいしさ。ひき菜も独特の歯ごたえがあり、セリもシャキシャキ、はらこがプチプチ。う~ん、おいしい宮城ここにあり!  感動して「おいしい」を連発する私やウィリアムさんたちに、お母さんも嬉しそう。 「喜んでもらえると私も嬉しいわ。亮平は何を作っても黙って食べるだけで、おいしいか尋ねても『ああ』とか『うん』しか言わないのよ。だから全然作り甲斐がなくて」 「えーっ? それはいけませんねぇ」  同調した私にお母さんが「そうでしょう?」と身を乗り出す。お雑煮のお出汁を味わっていた片倉さんは、突然やり玉に挙げられてグフッとむせた。 「違うよ。あまりのおいしさに言葉を失ってるんだよ」  そう(うそぶ)くように言う片倉さんに、お母さんもしょうがないわねぇ、という表情。その様子から本当に仲がいいんだなぁ、とわかる。 男性の中には母親と距離を置きたがる人もいるけど、私は照れたりせずに大切にできる人のほうが素敵だなぁ、と思う。  和気あいあいとした雰囲気で楽しいお昼を終えた後、ウィリアムさん家族は和室でお母さんの指導を受けながら書初めに挑戦。料理の説明といい、教えるのが上手だなと思っていたら、お母さんも以前は中学校で国語の先生をしていたんだって。ちなみに亡くなったお父さんは高校の数学の先生、お嫁に行った妹さんは小学校の先生。家族全員が先生ってすごいなぁ。
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