5.魂を運ぶラザニア

27/86
1079人が本棚に入れています
本棚に追加
/388ページ
 そんな話をしながら、片倉さんが大きめのマグカップにコーヒーを淹れてくれる。暖炉のそばに置かれたリビングチェアに座り、いよいよ私たちの今後にかかわる話し合いをする時が来た。  今まで賑やかだったのが二人きりになったせいで、急にしぃんとした静けさに包まれる。話すことは考えてきたけれど、いざ片倉さんを目の前にすると、やはりなかなか言い出せない。どう始めようか思案していると、暖炉の薪が急かすようにパチパチと爆ぜる。その音で顔を上げると、優しく微苦笑する片倉さんと目が合った。 「言い出しにくそうですね。もしかして僕、これからフラれます?」 私は動揺と共に絶句した。まさかこれほど直截に、しかも片倉さんの方から切り出されるなんて、思ってもみなかったからだ。 そんな私の反応に、彼の微苦笑は次第に自虐的な失笑へと変わった。 「やっぱりそうかぁ……。なんだか積極的に自損事故をおこしてしまった感じですね」  やれやれ、と肩をすくめた後、片倉さんの眼差しに隠しきれない悲しさが滲み出る。  率直に申し訳ないと思った。おそらく今の片倉さんが一番聞きたくないであろうことなのに、私が言い出しにくそうにしているのを気遣ってくれたのだろう。私もきちんと伝えなくちゃ。今日はそのために来たんだもの。 「私……陽ちゃんのことが好きなんです。たぶん、ずっと前からそうだったんですけど、近過ぎてなかなか気付けなかったというか……。ですから、片倉さんとはお付き合いできません。本当に……」  申し訳ありません、と頭を下げると、伝えたという事実に心臓がドキドキした。
/388ページ

最初のコメントを投稿しよう!