5.魂を運ぶラザニア

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「妹ですか……そうですよね」  そう言葉にすると、自嘲的な笑いと一緒に泣き出したい衝動に襲われ、私はぐっと奥歯を噛みしめた。わかってる。わかっていたはず、と。  自分の気持ちに気がついた今、陽ちゃんへの想いはこれからも強くなっていくだろう。まるで罰ゲームの巨大風船がどんどん膨らんでいくみたいに。  近い将来、陽ちゃんが振り向いてくれるという確証はどこにもない。それは私が勝手に抱いている『願望』だ。もしかしたら、その不透明で不確実なものは、形になることなく消えてしまうかもしれない。  星ちゃんと秋保で話した時、こんなふうに辛い想いをすることは容易に想像がついたし、その覚悟もきちんと決めたはず。だけど、今みたいに身構える間もなく核心に触れられてしまうと、私の決心は自分でも驚くほど脆いのだとわかる。 「御厨さんはあなたの気持ちを知らないんですよね? どうして告白しないんですか?」  片倉さんが俯いた私の顔を覗き込むようにして問う。好きならば何よりもまず気持ちを伝えるべき。まっすぐにそう思える人だからこそ、片倉さんは迷うことなく交際を申し込んでくれたのだろう。でも私は彼のような強さや潔さは持ち合わせていない。 「言えたらいいんですけど……今はまだ無理なんです。いろいろと事情がありますし、片倉さんが聞いたとおり妹としか思われていませんから」  むき出しになった脆い気持ちを作り笑いで補強したけれど、鋭い片倉さんの前では全く意味をなさなかった。
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