5.魂を運ぶラザニア

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 考えても埒が明かないので、とにかく『OKです』と返信をした。 『ありがとうございます。では、六時半頃ご自宅へ迎えに行きますね。一番町に創作和食のうまい店があるので、そこへ行きましょう』  おお、創作和食かぁ。片倉さんがおいしいと言うんだから期待大だよね。  承知した旨のスタンプを送ってやりとりを終えたけれど、この時の私は、片倉さんが人生を左右するような話をするとは露ほども思わず、どんなお店なんだろう? などとお気楽なことしか考えていなかった。 *     *     *  翌日。  約束どおり迎えに来てくれた片倉さんの車で向かったのは、一番町アーケード街の裏側に位置するお店。旅館のような外観で、暖簾をくぐった先にフロア席はなく、すべて個室みたい。店員さんの接客もゆったりとしていて寛げる雰囲気。  通されたのは琉球畳敷きのこぢんまりとしたモダンなお部屋。掘りごたつ風の席が気楽な感じで、窓からはライトアップされた庭の竹やつくばいが見える。 片倉さんがあらかじめコース料理を予約しておいてくれたので、まずは乾杯。私は病み上がりだし、片倉さんも車の運転があるので、ノンアルコールの梅酒をいただいた。 「落ち着いていて、いいお店ですね」  一息ついて率直な感想を口にすると、片倉さんは「そうでしょう?」と微笑み、それから首を傾げるようにしてじっと私を見た。 「な、なんですか?」  ドギマギする私に片倉さんの眼差しがふと哀しげな色を帯びる。 「いえ、痩せたなぁと思って。御厨さんのこと……そんなに辛かったんですか?」  彼らしいまっすぐな言葉が、まだ完全ではない弱った部分に沁み渡る。これが倒れる前だったら、おそらく泣き出していただろう。
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