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2. 秋の部屋……涼太
少し湿気た空気の匂いがした。
突き刺すような日差しが溢れていた夏から一転して、今年の秋はほとんど晴れない。また雨が降ってきそうな気がして、俺は公園の緑の向こうに広がる灰色の空に目をやった。
雨に濡れるのは気にならない。だけど、さらに足早になったのは気持ちが急いているからだ。和真の家は目と鼻の先だ。
和真はもう三日も学校を休んでる。
たまったプリントを渡すのは口実で、顔が見たいっていうのが本音だった。
和真はほとんど誘いに乗らない。学校では一緒だけど、家に行くことはほぼなかった。踏み込もうとすると、ふわんと圧を感じる。
和真は怒ったりしないけど、綺麗な顔で困ったように黙るから、けっこう強引なはずの俺なのに、その先に入れない。
だから長い付きあいの割にあの夏の庭のことも知らなかった。
小学生で引っ越してきた時、父子家庭でばーちゃんが面倒をみてくれてるっておおまかな話は聞いたけど、知ってるのはそれぐらいだ。
誰だって話したくないことはある。さすがの俺もそれぐらいはわかってるから、普段は和真の気持ちを尊重して、家のことは話題にしない。
けど、三日だ。三日は長い。
行く、と言っても断られるのはわかってたから、一方的にラインを送って押しかけることにした。
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