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10.冬の手紙……和真
『 涼太へ。
寒いね。年賀状代わりに、手紙を書くことにした。
図書室で受験するって宣言してから、一切、話をしていないから、涼太が今、どんな状況かはわからない。けど、一生懸命勉強しているらしいことは、瑞樹から聞いて知ってる。
俺のよく行くコンビニは、瑞樹の塾に近いから、ときどき会うんだ。
何をしたの、あのやる気のない人に?
って、不思議顔で言われたよ。俺も正直、驚いている。
涼太が東京の有名大学に願書を出したって話は、ひそかに噂になってる。先生にまた進路指導室に呼ばれて、時間が勿体ないから後にしてくれないですか、って開き直った話も。
でも、思えば涼太は屈託のない明るさの隙間に、昔から少し謎めいたところがあった。
子供じみた探検なんてしてるくせに、それに関してはどの友達も誘わないところとか。成績はどん底でも、絶対に落第するようなヘマはしないとか。事故りそうになった瑞樹を、信じられないような身体能力で助けたりとか。俺にかけた多大な労力とか。
いつもへらへらしているようで、実はけっこう、考えてるよね。その隙間に隠れた涼太の顔を俺は知らない。でも涼太自身では辻褄があってる。
だから、今回のことだって、自分の中での理屈は通ってるんだろう?
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