10.冬の手紙……和真

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 でも胸の奥がぞわぞわしていた。母さんはほとんど家にいて、俺が帰ってきた時にいないことなんかめったになかった。やむを得ない時には置手紙がある。それぐらい母さんの不在は、俺にとって異常なことだった。  その日は置手紙も何もなく、母さんだけがいなかった。その違和感は不安にとってかわって、俺は時折、鳥肌を立てたまま、膝を抱えていた。    あの夜の事は忘れない。  誰も帰ってこなくて、どんどん夜が暗くなって、俺は部屋から動けなかった。  たぶん、大変なことが起きてる。  そんな予感がして、怖くて、静かに炊けていく炊飯器を見つめている。足音に期待して、通り過ぎて絶望する。俺は思っていた。    母さんはきっともう帰って来ない。  なんの根拠もないのに、その勘が当たっている自信があった。  遅くなって父さんが帰ってきて、母さんがいないことを知ると血相を変えて出て行った。  そのままあちこちぐるぐるまわって、見つからないとなるや警察に捜索願を出した。俺も事情を聞かれたけど、答えることなんか何もなかった。  母さんはその朝も、前の日も、本当に普通だったから。
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