10.冬の手紙……和真

5/14
前へ
/250ページ
次へ
 騒ぎが大きくなったせいで、周辺一帯に母さんが行方不明なことは知れ渡っていた。俺の家には、様子を見にひっきりなしに誰かが出入りしていた。  俺は身じろぎもしないで、周囲の気配を伺っていた。  ひそひそ話だったり、直接だったり、俺の耳にすら色んな噂が聞こえてくる。俺がひっそりとしていたせいで遠慮はなくなり、エスカレートした話声は辺りを憚ることもなくなっていた。  だから筒抜けだった。  あれだけの美人だったから男を作って逃げたんだとか、綺麗な人だったから犯罪に巻き込まれたんじゃないか、とか。何を考えてるかわからない人だった、とか。  同情と好奇心のないまぜになった視線は、始終俺にまとわりついていた。そのまま数日がすぎ、一か月が過ぎ、数か月が経過した。  時間は経つのに、母さんの事はいつまでも騒がれ続けた。  話題性もあったんだろうけど、たぶん、噂の止まない一番の理由は、俺が母さんにすごく似ているせいだったと思う。俺が通りかかるたびに思い出は風化されず、噂話は蘇った。
/250ページ

最初のコメントを投稿しよう!

880人が本棚に入れています
本棚に追加