10.冬の手紙……和真

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 おばあちゃんの家は、五駅分先ぐらい先にあった。  新聞に載るような事件ではなかったから、俺の家の事は誰も知らない。俺はすごく楽になったのを覚えてる。  父さんは引っ越しを機に、ほとんど家に帰らなくなった。仕事が忙しいっていつも言うけど、忙しくしてるのは父さん自身だと思う。  奇異の目に疲れていたから、引っ越した先で、母さんの失踪がばれるのは絶対に避けたかった。俺はしばらく友達関係を作る気もなかった。  無遠慮に質問されるのはうんざりだったし、付きあうようになればお互いの家に出入りするようになる。そうなれば、家の事情がだんだん見えてしまう。  だから俺は平穏な生活と引き換えに、クラスの中でいてもいなくてもわからないような影みたいな存在になろうと思ってた。  でも涼太のおかげで、思いがけず、俺の新生活は賑やかになった。  今になって思うけど、涼太はすごく守ってくれていた気がする。他の友達も涼太に引きずられて、俺に余計な手出しをしてくることはなかった。根暗で付き合いの悪い転校生なんて、それだけでいつ何等かの標的にされてもおかしくないのに、ずっと呑気にやってこれたのは涼太のおかげだったと思う。  ただ、それ以上、親しくなることはできなかった。涼太も、他の友達もだ。  友達ができて、それをおばあちゃんに言う。おばあちゃんは、それを歓迎しなかった。意地悪じゃない、おばあちゃんは優しい。だけど、ひどく不安がる。  和真は、お母さんに似てるから、どこかに連れていかれちゃうかもしれない。  何の根拠もない不安だ。だけど、おばあちゃんは、真剣だった。
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