10.冬の手紙……和真

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 もしかしてこれは監視なんじゃないか。  おばあちゃんの愛情を感じる一方で、まるで一挙手一投足に糸を張り巡らされているような緊張感に、俺は息が詰まりそうだった。  でも、子供だった俺は、世話をしてくれるおばあちゃんに、文句を言えるはずがなかった。  おばあちゃんは父さんに頼まれて、俺のことを逐一詳細に連絡していた。だから、俺の様子が少しでも変だと、全部父さんに筒抜けになった。いつもいないのに、父さんは何でも知っていた。たまに帰って来たって、俺を正視することすらできないくせに。  俺が中学、高校と進学しても、おばあちゃんとの生活は続行していた。  年齢のせいで少し心臓が弱くなっていたけど、気力はしっかりしていた。ただもう、高校二年になる頃には庭まで登ることが難儀になっていて、あそこは事実上、俺の庭になっていた。  相変わらず俺が出歩くことは嫌がっていたけど、庭の様子は気になるようで、そこにだけは俺が一人で行ってもいい事になった。初めての一人の時間だった。  手入れを口実に、休みのたびに庭に行った。長期の休暇は、毎日庭で過ごした。一度味わってしまった自由の味は、俺を虜にした。  夏休みの最後の日、その解放感を満喫していた俺を、涼太が見付けた。  あの日、涼太とのセックスのあと、俺はしばらく庭から動けなかった。体には泥がついていたし、下半身は波打つように痛む。でも、少しでも異変が顔に出れば、おばあちゃんにすぐに気づかれてしまう。  庭の水道で水を浴びて泥も血も流して、服も洗って濡れたまま着直した。  支度はできたけど、どうしても帰りたくなくて、家についた時はもう夜になっていた。  当然、おばあちゃんは半狂乱だった。俺を引き取ってから、こんなに帰りが遅れたことはない。部屋に引きずり込まれ、激しく追及された。
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