10.冬の手紙……和真

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 母さんは、何を考えていたんだろう。  いつも幸せそうに笑っていたけど、それも全部嘘だったんだろうか。何度も俺に言っていた『大好きよ、和真』の言葉はどこまでが本当で、どこからが嘘だったんだろう。  父さんは母さんをどう思ってるんだろう。 『母さんみたいに綺麗な人が、父さんの奥さんになってくれるなんて、夢みたいだよ』、って臆面もなく言うぐらい、父さんは母さんに惚れ込んでいた。 でもその母さんに似ている俺を、父さんは避け続けている。  おばあちゃんは?  おばあちゃんは結局、本当に俺を心配してたんだろうか。  そもそも俺の母さんをどう思ってたんだろう。あの常軌を逸した監視は俺への愛情なのか、それとも息子を置いていった母さんへの当てこすりなのか。  俺は、家族の誰からも大事にされていたはずなのに、そのどれもが信じられない。  みんな笑顔の皮の下に、口に出されない本音を隠しているようで、怖いんだ。  涼太のことを信じようと決める、だけどそう思うそばから不安になる。  俺は誰の本音も見破れなかった。ぼんやりと平和な生活に浸かって、まんまと見過ごして、ふと気づくと日常が足元から崩れてる。  涼太に犯されたあの日まで、俺は涼太がそんな感情を持っているなんて全くわからずにいた。いつも明るい涼太の頭の中は、楽しいものだけで溢れてる子供世界の延長にあると思っていた。  俺にとって、犯されたことと同じぐらい、涼太の欲望に気付けなかった衝撃が大きかった。  誰の本音も気付けなかったから、好きだ、という言葉を素直に信じられなかった。  好きという気持ちも、運命という言葉も、どちらも取り出して証拠を見せられるものじゃないのは、じゅうぶんわかっている。なのに確かめずにいられない。
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