11.冬の手紙……瑞樹

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11.冬の手紙……瑞樹

 全てが想像以上だった。 「俺、今日から勉強するから」  家に帰るなりそう宣言した涼太は、言葉通りその日から勉強漬けになった。  それまでほぼ手つかずだった教科書と問題集を瞬く間に読み漁り、毎日、本屋から新しい参考書を買ってきては手をつけて、終わると積み上げる。数日でたちまち部屋は足の踏み場もなくなった。 「どうしたの、やっと本気って訳?」 「黙ってろ瑞樹」  涼太の集中力は凄まじく、あらゆる物音を遮断し、昼も夜もなく、完全に自分の世界に没頭していた。  取り寄せた受験要綱は全て都内の難関大学。両親が呆気にとられている間に、自分で受験手続きを済ませ、あとはひたすら勉強をしている。  俺は、急変した涼太の様子が知りたくて、塾に行くたびに持田先輩に様子を聞いた。  持田先輩は涼太と同じ高校で、クラスメイトだ。  俺とは同じ塾の高等部を受講している。自主学習のスペースでしょっちゅう見かけるから、休憩の時は話もする。  初めは俺から声をかけた。去年の冬ぐらいだったと思う。  塾近くのコンビニの前で、買い物に来ていた和真としゃべっていたら、店の中からちらちらと様子を伺う持田先輩の視線に気が付いた。  制服と校章が涼太と同じだから同級生だと察しはついた。だったら自分で和真に声をかければいいのに、先輩は俺に優しく笑いかける和真を見つめるだけで動かない。  ああ、そういうかんじ?  俺は、すぐピンときた。  和真の方は全然で、むしろ気の毒なぐらいだ。あの容姿だから、人の目を惹くことに慣れ過ぎて、感じないんだと思う。頭の中まで筋肉でできてるような俺の部活仲間ですら和真を前にするとぽーっとなる。  俺は、和真と別れてからもう一度コンビニに入った。
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