11.冬の手紙……瑞樹

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『あれ、やっぱないなあ』  持田先輩の近くで、わざとらしく落とし物を探すフリをする。 『どうしたの?』  持田先輩は見かけ通り親切な人で、すぐに手伝ってくれた。  俺ははじめから手の中に隠しておいたキーホルダーを棚の隙間から拾いだした。 『あった! 和真についてった時に、何か落とした音が聞こえた気がしたんだけど、ついそのまま出ちゃって』  和真の名前と、つまみ上げたキーホルダーに彫られた名前に持田先輩はすぐ反応した。 『あれ、浅野って、もしかして浅野涼太のとこの浅野?』 『涼太は兄です。涼太より和真の方がよっぽどお兄ちゃんみたいだけど』 『へえ、和真とも仲いいんだ』 『もちろん』  和真の名前を出したその時だけ、持田先輩の声に甘い響きが籠った。俺は上級生に受けのいい、礼儀正しい笑顔を作った。  それをきっかけに、俺は持田先輩とじわじわと距離をつめた。  馴れ馴れしくならない程度に。かといって疎遠にならない程度に。そして全ての成り行きが、自然であるように。  俺たちは貴重な持ち札を取引するように、お互いが知りたい情報を何気ない会話に散りばめた。学校での涼太の様子、和真と涼太の二人のこと、進路。  話せば話すほど、持田先輩が和真にぞっこんなのは、容易に伝わってきた。  そんな単純な理由の延長で、涼太をよく思っていないことも明らかだった。俺は適当に話をあわせながら、わざと涼太への不満を混ぜ込んだ。 『涼太ってホント適当なんだ。そのくせすぐ怒るし。和真も腐れ縁とはいえ、よく付き合ってると思うよ。先輩にこんなこと愚痴ってるのがバレたら大変だから、俺と話してること、兄ちゃんに言わないでね』
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