11.冬の手紙……瑞樹

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 涼太の勉強への打ち込みぶりは、それを歓迎しているはずの俺ですら異常に思えるほどだった。  冬休みは完全に家に引きこもりっていた。クリスマスも正月も、年頭恒例の本家への挨拶すら顔をださず、参考書に埋もれている。 「すごい追い込みよねえ」「まあ、涼太の好きにやらせたらいいじゃないか」  母さんは食事の差し入れをすると、いつも決まってそう言った。父さんの答えもいつも同じだ。  それは元旦の日も変りなくて、俺はその二人の会話を聞きながら、ソファーでテレビを見ていた。いつもだったら座る場所や見たい番組で揉めるのにそれもなく、面白いはずのテレビも上っ面を目で追いかけているだけだった。 「年賀状取ってくる」  退屈だった俺は、外に出ると郵便受けに手を入れた。  案の定、正月ならではの厚いハガキの束が入っていた。だが、それと同時に違う手応えが斜めに引っかかっている。しがみつくように郵便受けにへばりついていたそれを引っ張ると、厚みのある白い封筒が出てきた。  涼太宛だった。  裏にすると、望月和真、と記名されていた。俺は白い封筒を持ったまま、何度もその名前を読んだ。心臓の底が騒々しく波打つ。 「瑞樹―、あったぁ?」  家の中から両親が呼んでいる。  俺は咄嗟にズボンのポケットにその手紙をねじこんだ。胸のざわざわは、悪事を告発するように暴れ出していたけれど、俺は何喰わぬ顔でリビングに戻り、両親と顔を突き合せながら、ハガキを仕分けることに熱中した。
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