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拒否られたらどうしようって、今さらどきどきした。俺は考えるより、動いちゃうほうだから、こんな風にためらうことはあんまりない。
たぶん、相手が和真だからだ。
そして、夏の庭でその考え無しの成り行きで失敗してるからだ。
思い出すと全身の血が一瞬、逆流する感じがする。
和真はあれをなかったことにするって決めたらしく、その件には一切触れない。俺も触れられない。夏休みが終わって、学校がはじまって、再会した時からその態度は一貫していた。あの静かなる圧で、俺を制する。
だから俺も何にもなかったように振る舞う。
だけど頭の中真ん中にはずっとある。
和真の肌や体の形やその感触。歯を食いしばった和真の横顔と、ぎらぎらした太陽。
汗と、青臭い匂いが陽炎みたいに俺たちを包んでた。
俺は、鍵をかけたはずの門に手をかけて秘密の庭に忍び込むみたいに、あの日のことを思い出してる。
大きく息を吸って、思い切ってインターホンを押した。
しばらく待ったけど、気配がない。でも、玄関の傘立てには濡れた和真の傘がささってる。
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